John Carpenterはホラー・SF・アクション映画監督としてだけではなく、優秀な作曲家としても知られている。彼の初期監督作品『ダーク・スター』、『ジョン・カーペンターの要塞警察』、『ハロウィン』などは、低予算で面白い映画が撮れる監督であるという評価を彼に与えたが、低予算という制約から、これらの映画のサウンドトラックは本人によるシンセサイザーの演奏となっている。そして結果的にこれらのサウンドトラックは長年に渡りシーンに多大な影響を与え続けることになり、今日の映画音楽には彼の音楽を真似た作品が数多く存在する。

今月、John Carpenterはサウンドトラック以外では初のフルアルバムとなる『Lost Themes』をSacred Bonesからリリースした。このアルバムには彼の息子Cody Carpenterと名付け子のDaniel Daviesが参加しており、3人による様々な楽器演奏により、John Carpenterの40年間に渡るサウンドトラック制作で培われたユニークなスタイルがこれまで以上に幅広い形で表現されている。また、デラックスバージョンにはBill Kouligas、Zola Jesus、Silent Servantなど、彼から影響を受けたアーティストたちによるリミックスも収録されている。今回はハリウッドにいるJohn Carpenterとの電話インタビューとなったが、終始リラックスした和やかなムードで進み、本人も『Lost Themes』の制作が簡単に進んだことを喜んでいた。不安定でアップダウンの激しい映画制作とはまるで違う作品制作だったようだ。

なぜ『Lost Themes』を制作したのでしょうか？　サウンドトラックではないアルバムを制作しようと思った理由は？

2年前の話だ。息子Codyと私は2時間ほどビデオゲームで遊んだあと、地下にあるDTM用スペースで2時間ほど音楽制作をして、またビデオゲームで遊んで、また音楽制作に戻る - これをしばらく繰り返した時があった。あらゆるスタイルの音楽を試したよ。ブルースやロック、それに譜面音楽、映画音楽、即興などをね。息子はそのあと日本に旅立ったんだが、私の手元には60分ほどの音楽が残り、それはそのまま放って置いた。すると私の元へ新任の音楽専門の弁護士がやってきて、「何か新しい作品はありますか？」と訊ねてきた。「そういえば、息子と作った音楽があるな」と思った私は彼女の元へそれを送った。その数ヶ月後にレコード契約を取り付けたのさ。「いやはや、こりゃ簡単だ！　一体どうなっているんだ！」と思ったね。

Codyとのジャムセッションからアルバムを完成させるまではどの程度時間がかかったのでしょう？

話は少し複雑になってね。オリジナルの60分の音楽をちゃんとしたアルバムにしたいということだった。だが息子は日本にいたので、名付け子のDaniel Daviesの力を借りることにした。オリジナルから多少削り、新たに曲を足さなければならなかったので、新曲も書いた。そうこうして2年後にリリースされたんだ。

CodyとDanielの担当は決まっていたのでしょうか？

全員が似たような役割を担っていた。全員が作曲家であり、演奏家であり、エンジニアだった。演奏、作曲、ミックスは私たち3人でやった。オープンでシンプルな制作環境だったよ。

あなたとCodyは以前から音楽を一緒に？

ああ。息子が小さかった時からね。彼の母親と私はタイプこそ違うが2人共音楽の才能があった。それが息子に引き継がれた。Carpenter家の血筋なんだろう。私の父は音楽の教師だったからね。音楽は常に身の回りにあった。Codyは素晴らしいミュージシャンだよ。素晴らしいテクニックを持っている。キーボード、ドラム、ギターが演奏できる。私はたいしたことないがね。

あなたは父親から直接影響を受けたのでしょうか？　音楽は父親から学んだのでしょうか？

ああ、もちろんそうだ。幼かった頃は常にクラシックを聴いていた。家の中で常にクラシックがかかっていたよ。父は私にバイオリンを教えようとしたんだが、あれは大きな間違いだった。何故なら私には全く才能がなかったからだ。だが、レッスンは受けたよ（ため息）。あれは辛かった。才能が全くなかったし、やる気もなかった。バイオリンは習得が難しい楽器だ。一番難しいかも知れない。私には無理だった。それでキーボードとギターを演奏するようになった。

その方が楽しかったのですね？

演奏できたからね。

ロックンロールが登場した頃ですか？

そうだ。

音楽をするには良いタイミングだったのでは？

楽しかったよ。私はThe Beatlesの大ファンだったからね。ブリティッシュ・インヴェイジョンの時代さ。The Rolling Stonesも好きだったし、アメリカの60年代、70年代のロックも好きだった。そういう音楽から学んでいったんだ。

The Beatlesをはじめ、その頃のバンドが引き合いに出たのは面白いですね。というのも、今回のアルバムにはその頃の感触があります。例えば2曲目"Obsidian"は『Pet Sounds』や『Smile』の頃のThe Beach Boysのようです。

ああ、私はThe Beach Boysの大ファンだからね。

John Carpenterのアルバムなら是非リリースしたいというレーベルは数多く存在したと思いますが、Sacred Bonesを選んだ理由は？

その点に関して私は一切関わっていない。ビデオゲームで遊んでいる間に済んでしまったことだ。このアルバムをリリースしたいレーベルが数多く存在したのかどうかは分からないが、Sacred Bonesは非常にユニークなレーベルで、様々な音楽をリリースしている。David Lynchの音楽やエレクトロニック・ミュージック、オールディーズなども手がけている。非常に面白いレーベルで、スタッフも本当に素晴らしい。なので、彼らが最適だと思えた。奇妙なアルバムだからね。

Sacred BonesがDavid Lynchの作品をリリースしていたのはプラスの判断材料になったのではないですか？　映画監督との仕事の進め方を既に知っているという意味で。

プラスだった。映画監督という人種は全員わがままだからね。

デラックスバージョンにはZola JesusやBlanck Mass、Bill Kouligasなどによるリミックスが収録されています。リミックスに対する感想はありますか？　自分の作品が再解釈されるのは面白いものですか？

面白いよ。ちょっと不可解で（笑）、よりダンスミュージックにシフトしている。だが、すべて素晴らしいし面白いと思う。本当だ。

お気に入りはありますか？

いや、全曲素晴らしいね。どれもユニークだ。私とは違う方向性を持った作品に仕上がっている。私はシンセサイザーを使ってオーケストラのサウンドを作り出すし、楽曲にはストリングスやパッドのサウンドがふんだんに盛り込まれているが、リミックスの大半はその手のサウンドを避けていて、よりテクノロジーを重視したサウンドに仕上がっている。

自宅スタジオのセットアップを教えてください。

Logic Proがメインだ。ひたすらトラックを足してレコーディングしていく。プラグインもある。何でも揃っているよ。オーケストラやシンセサイザー、エレクトロニック・サウンド、ベース、ドラムなどだ。色々あって全部試しきれていないよ。

『ジョン・カーペンターの要塞警察』や『ハロウィン』のサウンドトラックを手がけていた頃には考えられなかったような環境ですよね。

当時は真空管のシンセサイザーを使っていたから、チューニングしなければならなかった。信じられなかったよ。いやはや、あの頃は面白かったね！

初めてのシンセサイザーは？

最初に使っていたシンセサイザーは名前も知らない機種だった。昔Prophet 5も持っていたんだが、あれが今どうなってしまったのかは見当がつかないな。

近年エレクトロニック・ミュージックのサウンドトラック、特にホラーやSFのサウンドトラックが再評価されています。これは一種のノスタルジアだと思いますか、それともそれ以上のものだと思いますか？

分からないな。それほど明確に状況を把握している訳ではないのでね。だが、感謝はしているよ。こうして初めてソロアルバムがリリースできたからね。再評価は素晴らしいとは思うが、その理由は分からない。何か大きな意味があるのかどうかについても何も言えない。だが、現代の映画でシンセを使っている映画は少ないね。ほとんどがオーケストラだ。

私が最近聴いた中で注目に値すると思えたエレクトロニック・ミュージックのサウンドトラックの中で、あなたやGoblin、Tangerine Dreamのようなクラシックな70年代のサウンドトラックへのオマージュ感がないなと感じた作品はChristopher Youngによる映画『フッテージ』のサウンドトラックでした。これは彼が初めてエレクトロニック・ミュージックに特化して制作した作品です。非常にモダンで、レトロ感が全くありません。

未来的だね。Trent Reznorの作品も未来的だ。そういうサウンドが流行り始めているのかも知れないな。

『ジョン・カーペンターの要塞警察』や『ハロウィン』のような初期作品を作曲した当時、Terry Riley、Karlheinz Stockhausen、Morton Subotnikのような作曲家の作品は知っていましたか？

いや、どれも知らなかった。ひとり離れ小島で作業していたようなものさ。そうしなければ実現不可能だった。音楽を誰かに任せる予算がなかったからね。

「映画の音楽なんてどうやればいいんだ？」と思った瞬間はありましたか？

とにかくやったよ。やるしかなかった。99％は即興だ。先のことなんて何も考えていなかった。とにかく机に向かってやったよ。死にもの狂いだったね！　追い込まれながら絶望の中で制作したんだ。

自分で作曲することがリスクになる可能性は感じていましたか？

当時の自分は馬鹿すぎたんだろう。そこまで頭が回らなかった。私はただ映画が作りたかっただけだ。だから作曲については何も考えていなかった。

過去の作品を参考にしましたか？　例えばBebe and Louis Barronの映画『禁断の惑星』のサウンドトラックはかなりのインパクトがあったはずですが。

あの映画の存在は大きかったね。一番影響を受けたと思う。8歳の時にあの映画を初めて見た。あの映画のサウンドとビジュアルがあったから、私は「映画監督になろう」と思ったんだ。

では、初期作品群を制作したあとで、Tangerine DreamやStockhausenの存在を知ったのですね。

Tangerine Dreamの楽曲は映画『恐怖の報酬』(William Friedkin監督。1977年作品)で聴いた。あの映画は大好きで、音楽も大好きだ。だが、Stockhausenについては知らないな。ヘリコプターと弦楽を使った音楽（ヘリコプター弦楽四重奏のこと）があったが、あんな変な音楽は聴く気にならなかった。私は50年代、60年代の昔からあるような伝統的なサウンドトラックに大きな影響を受けている。Bernard HerrmannやDimitri Tiomkinのような作曲家の作品だ。彼ら − 特にBernard Herrmannは、シンプルなメロディーからスコア全体を組み上げていた。例えば映画『地球が静止する日』がそうだ。ベーシックでシンプルだが、奥が深い。

70年代のアーティスト、例えばGoblinのようなアーティストと連絡を取ったことがありますか？

（Goblinのキーボード）Claudio Simonettiは数年前に会った。本当にナイスガイだったよ。彼らが音楽を手がけた映画の集会のようなイベントがあり、そこでSimonettiとAsia Argentoに会った。だが私はAsia Argentoからより大きな影響を受けている。

GoblinはGenesisやKing Crimson、Emerson Lake & Palmerなどのプログレッシブロックに影響を受けていますが、その影響は『Lost Themes』にも見受けられます。プログレッシブロックファンなのでしょうか？

私はGenesisの大ファンなんだ。息子の方がファンだがね。彼はプログレッシブロックファンなんだ。

その影響はCodyのバンド、Ludriumで顕著ですね。.

ああ、いいバンドだよ。

『マウス・オブ・マッドネス』と『ヴァンパイア／最後の聖戦』のサウンドトラックにはヘビーなギターリフがフィーチャーされています。このサウンドが合うと思った理由は？

『ヴァンパイア／最後の聖戦』には西部劇的な、ブルージーな感覚があった。そこで私はバンドを組んだんだ。Steve Cropper、Donald “Duck” Dunn（Booker T & The MGsのギタリスト／ベーシスト）、Skunk Baxter（セッションギタリスト。Steely Danとの共演で有名）と一緒にね。本当に楽しかったよ。

超一流のプレイヤーたちですね。

その通り！　天に昇る気分だったね。私がリズムギターを弾く横で、Steve CropperとDuck Dunnが演奏しているんだから！

制作はどのように進めたのでしょう？

コードをいくつか弾いて、それを元に即興で組み立てていった。基本的にはコードとちょっとしたメロディーを中心に即興で作っていった。それだけだ。最初のアイディアを膨らませていく感じだ。

『ハロウィン』の作曲もそのように？

ああ。あの映画の場合はまずサウンドを試していった。例えば「ダークでディープなサウンドが欲しい」と思いついたら、コードを弾く。それで「これだ！」と思ったら、そこから作曲していく。素晴らしい制作方法さ。『Lost Themes』が面白かったのは、特定のイメージに振り回されることがなかったからだ。音楽を演奏しただけだ。ただ自由に音楽を楽しんだ。プレッシャーもなく、プロデューサーもいない。「いつ終わるんだ？」って私の顔をのぞき込む人がいないのさ。

映画制作では避けられない光景ですよね。

まぁ、映画とはそういうものだ。映画を心底愛さないと無理だね。私の映画への愛情はそうやって何回も試されているんだ（笑）。