「今回はディスるインタビューにしようよ」とLuke Vibertがジョークを飛ばす。その対象となったのは、レイヴ、Aphex Twin、そして、彼の「デフォルト」名義であるWagon ChristのホームレーベルNinja Tuneなどだ。さらに彼は汚い言葉を頻繁に使う。しかし、それは暴言とは違う害の無い類の言葉だ。ご存じの通り、Vibertという人物はそのディスコグラフィーとは異なり全く威圧感が無い。彼は90年代初期から名義、ジャンル、レーベルを次々と変えながら作品を発表してきた。Wagon ChristではVibertの特徴でもある奇妙な感覚をふんだんに組み合わせながら、サンプリングをベースにしたヒップホップとダウンテンポを探求し、そして、PlugおよびAmen Andrews名義ではドラム&ベース作品を発表している。前者は現在休止中だが、後者は昨年Falty DLのレーベルBlueberry RecordsからのEPで復活を果たした。

Vibertは本名名義でMo’ Wax、Warp、Planet Muといったレーベルからこれまで8枚のアルバムを発表してきた。昨年には、アルバム『Ridmik』によってレーベルHypercolourの一員になっている。そしてこの度、同レーベルから4作目となる『Kerrier District 4』と共に彼が帰還する。この作品はもともとRephlexから発表していたシリーズのフォーマットを踏襲している。ひとつの記事でこれだけの音楽をすべてカバーするのは難しいだろうとは思っていた。それは様々な逸話を次々と話していくVibertの性格を抜きにしても同じだ。彼の発言は驚くほど遠慮が無い。もしかすると、少し度が過ぎているくらいだ。しかし、そうしたネガティブな表現はむしろ、決して平坦だったとは言えない作品作りに対する偽りの無い情熱を浮き彫りにしているかのようだった。彼の音楽と同様、彼自身にもシリアスな面とおどけた面がある。そして、その両面が同時に表れることもしばしばだ。しかし、そうした無秩序な会話を通じて、事の真相に近づくことができたかもしれない。

まず活動初期のことから始めていきたいと思います。あなたがRephlexから最初のレコードを出した頃、コーンウォールでは何が起こっていたんでしょうか？

みんなはハッピーハードコアにハマっていた。だから俺や友達は全く別の方向の「シリアスな」エレクトロニックミュージックやアンビエントものを好むようになった。でも俺らが気付かないうちに、みんなはジャングルを聞くようになっていた。バカみたいに痙攣しているだけのレイヴミュージックからシリアスなジャングルに変わった年を、あのヤバかった1993年を俺たちは体験していないんだ。そのことを今でも少し後悔している。でも、あの高速ピアノや解像度の低いサンプリングものにはイライラしていたよ。あの頃、ハードコアの連中はほとんどAmigaかAtariのコンピューターで音楽を作っていたんだ。今聞くと本当にそのことが分かるよ。本当にクオリティが低くてどうしようも無かった。ああいうものはすべて「ああ、この音楽はバカなガキのための音楽だ」って思わせるように仕組まれていたんじゃないかな。そう思ってしまったことを今じゃ後悔している。レイヴのレコードをほぼ売ってしまったんだ。そして、20年かけて、20倍の値段で再び買い直している。売った時は2箱で100ポンドだったのに！

人生で一番後悔したことについて聞こうと思っていたんですよ。この一件がそうですか？

たぶんそうだね。あと、値段が安い時に機材を買えていないことも後悔しているかも。80年代後期と90年代初期は、みんなが新しいものを求めていた。そして、その頃はサンプラーを買うのに2500ポンドもかかっていたような時代だ。今ではコンピューター上でサンプルのプログラムがタダで手に入るのにね。俺は自分の金を全部貯めておいて、って言ってもそんなに多い訳じゃないけど、1700ポンドでサンプラーを買ったんだ。すごくチープなサンプラーでさ。当時はそんなサンプラーでもすごく高かったんだ。あんなに金を払うんじゃなかったよ。

Vibert/Simmondsのレコード「Weirs」について聞いてもいいでしょうか。プロパーなエレクトロニックミュージックをリリースしたのは「Weirs」が初めてでしたよね？

そうだね。91年に出ることになっていたんだけど、レーベルのやつらは友達だったから、俺たちに対しては本当に適当でさ。他のやつらのものばかり出していたよ。

Rephlexが適当だったということですか？

そうだよ。だって、俺たちはあいつらと一緒に学校に通っていたから。あいつらは全員、アメリカ人のレコードをリリースして喜んでいた。だから「頼むよ、俺たちの作品を出してくれよ」って思っていたよ（笑）

Simmondsというのは誰だったんでしょうか？

Jeremy Simmondsというやつで、今でも一番の親友だ。俺たちはSimmondsに音楽を続けるように何年か言い続けていたんだけど、あいつは諦めてしまった。Simmondsは俺みたいに音楽を制作することなんてなかった。あいつはキーボードも弾けないし、何もプレイできないんだ。俺はいわゆる音楽的なものを担当して、あいつはテープか何か分からないけどクレイジーで奇妙なノイズを鳴らしていただけだ。

やるせないことですが、それが作品にとって重要だったのかもしれないですね。

ああ。俺だけだったらああいうサウンドには絶対ならないな。あいつが持ち込んだ要素が何であれ、それがあったからこそVibert/Simmondsの作品になっていた。

もっと彼とやってみたいと思いますか？

そうだね。でもできないよ。随分昔のことだからね。Plug名義ももうできない。Plugをやってみようと何回も試してみたけど、できなくなっていた。

何故でしょうか？

さあね。試したけどできないんだ。俺はそういうタイプの人間じゃないんだよ。そういう風に自分を切り替えられない。理由ならたくさんある。今の俺は音楽の作り方について多くのことを知り過ぎてしまっている。何も知らずにただ適当にやるっていうことが素晴らしいんだ。ただし、いい耳を持っていないといけないけどね。

では、あなたにとってPlugとは何だったのでしょうか？

とても実験的なものだった。自分ですら何をやっているのか分かっていなかったよ。意図せずにああいうサウンドになったんだ。でも、他のバカなやつらみたいにドラム&ベースの作り方を学んでいけばいくほど、Plugもそういうバカなやつらみたいなサウンドになっていった。本当に困ったもんだよ。自分が何をやっているのかなんて理解していない方がいいんだ。

2011年にNinja Tuneからリリースした作品が本当に好きなのですが、あれはすべて古い音源だったんですよね？

大昔だよ。94～96年だ。

どうしてその頃の音源をリリースすることになったのでしょうか？

レーベルのやつらが頼んできたんだ。いや、俺の方から最初にリミックスか何かを頼んだんだ。その時、めちゃくちゃ税金の請求が来ていてさ。NinjaやPlanet Muとか俺が知っていたレーベルほぼすべてに頼み込んだんだ。そうしたら、あいつらは「昔のPlugのトラックある？」って感じでさ。でも、ちょうど俺もPlugの音源を出したいと思っていたところだったから、本当によかったよ。Amen Andrewsもやっているけど、あれは全く違うものだ。ある意味、Amen Andrewsはセラピーのためにやっている。すごく時間のかかるシリアスなトラックを作り続けている時なんかにね。

では、PlugとAmen Andrewsの違いは、単にPlugがAmen Andrewsより早く始まったプロジェクトということだけですか？

今はもうPlugをやることはできない。俺が初めてジャングルに挑戦したのは94年だ。それがリリースされたのは95年だったと思う。当時はジャングルについて何も知らなかった。俺はライブミュージックの方にハマっていた。何年もバンドをやっていたからね。当時はまだ誰かとジャムっている時期だった。今の俺はライブ的な一面が無くなってしまって、完全にスタジオ野郎だ。あの感覚を取り戻せないことを残念に思うよ。93年の時みたいな昔のWagon Christを作ることもできない。俺はもうそういう人間じゃないんだ。その時のスタジオももう無いし、今は嫁も子供もいる。91～92年と95年～96年はガールフレンドがいなかったから、その4年間は毎日自分のスタジオで過ごしていた。それから音楽以外の人生をゆっくりと手に入れていったんだけど、音楽にとってはそれがよくなかった。

ロンドンに引っ越すことにしたのはいつですか？

94年だ。21歳の時で、友達はみんな地元を離れていたから、俺も歳を取ったんだなと感じたよ。残されたのは俺だけだった。俺はOur Priceっていう昔の音楽チェーン店でちゃんと仕事をしていたんだ。後に他のレコード店と同じようにOur PriceもVirginに買収されて消滅しちゃうんだけどね。1990年から1994年までOut Priceで働いていた。16歳の時に6th Formのカレッジ（高等教育のための教育機関）に通い始めたけど、すぐに中退したんだ。それで、レコード店で仕事を見つけて何年か働いた。その後ようやく地元を離れてロンドンに向かったんだ。金がそれなりに溜まったからね。でも、それまでに俺は既に2枚のレコードを出していたんだ。さっき話したVibert/SimmondsとWagon Christのファーストだ。

黎明期のRephlexがあなたのキャリア形成をどのように助けたと思いますか？

Rephlexというよりも時代そのものの影響が大きかったと思う。俺は当時から既にデビューできていたことを本当に幸運に思っている。あの頃は今ほど多くのものがあったわけじゃないからね。特に俺たちがやっているような音楽とか、Rephlexなんかは実際そこまでクラブ仕様の音楽ではないし、特定のクラブシーンを狙ったサウンドでもなかった。当時はそれほどクラブシーンがあったわけでもなかった。Rephlexはもっと広い意味での「ダンスミュージック」に近かった。レーベルはちょうどハウスやテクノ、ブレイクビーツに枝分かれして行き始めたところだったと思う。だけど当時はそれほどたくさんジャンルが存在しているわけでもなかった。そもそも、俺たちもジャンルという括りで考えていなかったし、常にそういう考えの外側にいた。どこかのシーンに属さなくていいんだと初めて思えたのはあの時だったと思う。俺たち同士でさえ、互いに結構違うトラックを作っていたからね。全体的に共通するようなものは無かったと思うよ。

2012年のBangface Weekenderで当時のメンバーが全員集合した時はどんな感じでしたか？

あれね！　もっとああいうことをやって欲しかったよ。すっごくよかった。俺の親父が来ていたこと以外はね。親父が来ていたから個人的にちょっと微妙な感じになった。親父はイベントの間ずっと俺のシャレーに泊まっていたから、みんなでバカ騒ぎできなかったんだ。

Rephlexのメンバーが全員集まったのは、久しぶりでしたか？

実はそうなんだよ。90年代はいつも一緒にいて、常にRephlexのツアーがあったんだけどね。みんなで会ったのは久しぶりだったけど、来ていないやつも何人かいた。例えば、みんなが大好きだったCylob。あいつは耳を痛めてしまって、もうプレイしなくなったんだ。でも、ほとんどのメンバーが来ていたよ。もちろん場所もコーンウォールだった。

Bangfaceと言えば、話題のChalet 303のレイヴ（Bangfaceのエリアのひとつ）に行ったことはありますか？

いや無いと思う。今年は909に行ったけどね。最初は606だと思っていた。James Saint Acidが俺に鍵をくれたんだ。すごく嬉しかったよ。606の場所を探して向かったんだけど、鍵が開かなくて、そこでようやく909の鍵だって気付いた。「やった！　909だ」って思ったよ。

606よりも909の方がいいんですか？

比べ物にならないね。ほら、どちらもドラムマシーンの数字だろ。だけど、909は酷い。だって、今、909を1台手に入れようと思ったら5000ポンドもするんだぜ。ムカつくことに俺の909は壊れちゃって誰も直せないんだ。

どうして壊れたんですか？

分かんない。何人か友達が触りたいっていうから貸してやったんだけど、何が原因だったのかははっきりと分からないな。Aphexのせいかもしれない。あいつにも数か月貸してやったんだけど、返してもらった時、ちゃんと動作チェックをしなかったんだ。それから1年くらいしてから909を使いたいと思ったんだけど、その時には動かなくなっていた。そうなってからだと、あいつに文句は言えないだろ。

I Love Acidについて話をしましょう。先日、Bloc（ロンドンにあるべニュー）でI Love Acidが開催された時、あなたもプレイしていますし、これまで何度もプレイしています。ちょっとしたレジデントだと言えるんじゃないでしょうか？

Josh Dohertyは、俺がプレイするときはいつも、「今回で最後だから」って言うんだ。1年前もそうだった。でも、あいつはまたパーティーをやろうとしている。10年前だったかな、随分前にJoshが俺に「お前のトラックの名前をパーティー名に使っていいか？」って聞いてきたんだ。「1、2回しかやらないからさ」って言いながらもう10年も経ったよ。

どのようなパーティーなのでしょうか？　過ぎ去ったレイヴの時代に戻るような感じですか？

いや、Bangfaceの方がそういう感じに近い。俺はアシッドサウンドを体験していないんだ。そもそも、コーンウォール全体が見逃していたと思う。コーンウォールでアシッドなことをやり始めたのはたぶんAphexが最初で89～90年のことだったと思う。俺たちは87～88年の音楽を見逃しているんだ。今、何が起こっているのかを伝えてくれる雑誌もラジオ局もコーンウォールには無かった。だから俺たちはアシッドハウスを聞いた時、「たぶん、こういうサウンドなんだろう」って思いながら、自分たちなりのバージョンを作ろうとしたんだ。でも自分たちがやっていることが何なのか分かってさえいなかった。それが俺たちにとってはとてもクールだったんだ。最近のキッズたちを可哀そうに思うよ。だって今ならどんなことでもすぐに分かるし、誰も知らないような未発表の変な曲さえもすべて聞くことができる。だけど、昔は何も知らないやつばかりだった。

あなたにとってピークタイムを代表するレコードはありますか？

その時の自分がどういうムードかにもよるね。Plugの『Drum ‘n’ Bass For Papa』の時もあるし、Wagon Christの『Tally Ho!』の時もある。Luke VibertでMo’ Waxから出した『Big Soup』の時もある。全部、95年～97年頃のものだ。あの時期から、俺の音楽の進化は止まっている。俺が今居る場所はその時から変わっていない。

あなたにとって当時がいい時代だと思うのは何故でしょうか？

さあね。単に音楽制作をしていてちょうどいい時期だったんだよ。今の俺は制作にのめり込み過ぎていて、自然ではなくなっている。

2011年にWagon Christの新作LPを発表することになったのは何がきっかけだったのでしょうか？

俺は常にNinjaからWagon Christの作品を出そうとしているんだ。5枚のアルバム契約にサインをして、まだ3、4枚しか完成させていないけど、毎回、レーベルのやつらとは口論になる。今の俺とあいつらはこう着状態みたいなもんさ。でも、そうだな、Wagon Christの作品は毎年出してきたいよ。

それは何故でしょう？

Wagon Christは俺の音楽制作のデフォルトだからだ。Wagon Christのアルバムなら1週間に1枚作れるくらいだよ。それに、俺が普段作っているのはサンプリングをベースにしたファンキーなもので、Wagon Christ的な音楽なんだ。もちろん、Ninjaのやつらはそれを変えたがっていて、Wagon ChristにKerrier Districtのようなトラックを求めてくるんだ。俺は「No」と言い続けているよ。だってKerrier DistrictはWagon Christじゃないから。俺はいつもレーベルとはバトルになるんだ。

あなたはたくさんの名義を使っていますが、それぞれ制作パターンの違いを意識していますか？

俺は単にいつも違うことをやって、自分自身を楽しませているだけ。そうやって作ったものを後になってまとめているだけなんだよ。でもそれは同時に、すごく個人的に音楽を作っているということだ。トラックがどのようになっていくのかなんて分からない。誰かのリミックスをやるような時の方が、確実に難しいよ。何も決まっていなくて、自分の好きなようにやれる方が好きだ。何かしらアイデアを持ってやっている訳じゃないから、トラックの始まりと終わりが全く異なることだってある。単に楽しんでいるだけなんだよ。

Luke Vibert

お気に入りの名義はありますか？

Wagon Christかな。Ninjaのせいで時間が経つ内にゆっくりと変わってきてはいるけど、今でもこの名義はダウンテンポでトリップホップ的なものだと思っている。俺が普段作っているのはああいう音楽だ。トラックの90%はああいう感じだよ。誰もああいう音楽を望んでいないけどね。Planet Muも望んでいない。Ninjaもだ。リリースするのが一番難しい名義だよ。

自分がプレイする時はどうでしょうか？　「Vibertセット」とでも言えるような自分で一番楽しんでいるセットはありますか？

ギグで自分が何をプレイするのかなんて、俺の前のやつが最後のレコードをプレイするまで分からないよ。その時になってようやく「ああ、くそ、最初のトラック何にしようかな」って考えるんだ。そうやって俺は最初のトラックを決めている。

では、それに対してどのように準備しているのでしょうか？

準備なんてしないよ。単に10000曲入っているラップトップを持っていくだけだ。レコードの時はもっと大変だったよ。家で「どのレコードを持っていくべきかな？」って考えていた。50枚しか持っていけないからさ。今は随分楽になったよ。そんなこと考えすらもしない。ただ耳で判断してプレイするだけさ。

最近、何をプレイしても大丈夫な雰囲気になってきていますが、このことは特にあなたのようなスタイルにはぴったりな状況だと思います。

色んなものをプレイしてもよくなっているのは確かだ。以前のみんなはとても気分屋だった。今の若い世代はDJに対してアグレッシブじゃない。昔は何度もボコボコにされそうになったことがあるよ。今の人は、どんな音楽でもOKって感じだ。それってある意味、素敵なことだけど、一方で、みんなが持っていた激しさを懐かしくも思っている。当時は客がDJのところまで来て、ボコボコにするぞって脅していたよ。もちろん酷いことだとは思うけど、同時に愛着を持って懐かしんでもいる。最近のやつらは大して何も気にしていないんだ。何をプレイしてもみんなは楽しもうとしてくれる。

一度でも上手くいかなったことはありますか？　最悪だったギグについて教えてください。

Clink Street PrisonでAphexとやった時だな。あの場所で自由にイベントができなくなってしまう前の最後のイベントで、1997年のハロウィンだった。24時までしか場所が確保されていなくて、っていうのも会場がプロパーなクラブじゃなかったからなんだ。WarpがAphexのために場所を押さえていた。あいつは22:30から24:00までのトリを務めることになっていたんだけど、何故かすごく退屈しちゃったみたいで、まだそれほど客が来ていないのに予定より早くプレイしちゃってさ。前の日に「お前、ウォーミングアップやるんだろ。だったらナイスでメロウなファンク持って来いよ」って言っていたんだぜ。それなのに、あいつは俺と順番を入れ替えたんだ。ハードコアなセットを期待してそこにいたやつらはムカついていたよ。22:30になって俺がファンクをプレイしなきゃならなくなって、みんなは「うせろ！　最低だ」って野次を飛ばしてきたよ。あの時が人生で最悪のギグだね。そこにいた人全員が「うせろ、Wagon Christ。俺らが見たいのはAphex Twinだ」って野次っていた。あいつにまんまとハメられたんだ。でも俺も何度かあいつをハメたけどね。俺があいつの前にプレイするときは、あいつがプレイしそうなものを俺が先にプレイしていた。あいつを困らせるためだけにね（笑）

当時はAphex Twinと一緒にツアーをしていたんでしょうか？

大抵、サポートアーティストとしてね。あいつはBjörkみたいな人と一緒にツアーをしていた。面白かったのはSneaker Pimpsとツアーした時だな。今じゃ誰もあいつらの話を聞かなくなったよな。”6 Underground”っていう結構スイートなヒット曲があったよね。でもそのトラックはあいつらの音楽を代表するものではなかった。本当のヒットはNellee Hooperっていうやつのリミックスだ。だからRichardはあいつらと一緒にツアーすることに同意したんだ。そうしたら、あいつらの音楽はリミックスとは全然違っていたんだ。あいつらは単なる下らないインディバンドでしかなかった。いやー、あれは最低だったな。ファンたちも互いに嫌い合っていたよ。

サンプリングについて話をしましょう。というのも、サンプリングはあなたがやっていることほぼすべてに共通していることだからです。

去年のHypercolour recordのレコードとか以外は、すべてアナログで作ったよ。Warpのアルバムもね。アナログだけでサンプリングを全く使っていないレコードも数枚作った。でも、そんなに多くはないね。

サンプリングの何があなたを魅了するのでしょうか？

サンプリングというアイデアそのものだね。他人のレコードから少しだけ取り出してきて、完全に異なるコンテクストに落とし込むっていうアイデアは本当にエキサイティングだよ。俺が最初にサンプリングしたのは母親のレコードだった。母親はYves Montrand、Charles Aznavour、Jacques Brelのような昔のフランスのシンガーソングライターが好きだった。当時の俺は「糞みたいな音楽だ」って思っていたけど、もちろん、その糞だと思っていたものをサンプリングしてからは「すごくいいじゃん」って思うようになった。サンプリングし始めた頃は、冗談みたいなことばかりやっていたよ。わざとバカバカしい音をサンプリングしていた。他人のものに関しては胡散臭いものが結構好きなんだ。

お気に入りの音源はなんですか？

胡散臭ければ何でも。チャリティショップで手に入れたものとか、何だっていい。たくさん有り過ぎるよ。俺はレコード部屋を持っていて、そこは自分のスタジオでもあるんだけど、いつかプレイするであろうDJ用のレコードで壁全面を埋め尽くしている。たとえヴァイナルでプレイしないとしてもね。あと屋根裏にはサンプリング用のレコードやイージーリスニング、クラシック音楽、サウンドトラックなんかもある。

最後にやはりKerrier Disrictについて聞いていこうと思います。この名義を久しぶりに再始動することにしたのは何故でしょうか？

Hypercolourが頼んできたからだ。最初の2枚はRephlexから出した。そしてRephlexが終了して、5年くらい前に日本のレーベルに12インチを1枚提供したんだ。この名義では本当にゆっくりトラックを作っている。俺の名義の中でも、Kerrier Districtのトラックが一番少ないよ。

それは何故でしょうか？

2003年くらいに1枚目をやった時には、再び同じ名義でやるとは考えてもみなかった。「このサウンドはどうやって生まれたんだ？」って思っていたよ。あのサウンドはどこからともなくやって来たんだ。だから、2、3年くらいああいうものはやらなかった。

Kerrier Districtの音楽を定義するとしたら？

単にディスコっぽくて、ライブもの、ってことだけだね。ベースラインやコードなんかを俺が演奏しているのは意図的にやっている。そうすれば、緩さが生まれるんだ。だからハウスとは違うサウンドになる。ハウスは糞みたいに凝り固まっていてコンピューター化されている。すべてが画一的なんだ。俺はKerrier Districtをもっと緩くてライブ的で少し奇妙なサウンドにしようとしている。バカげたこともやっているよ。すごく静かな音でカフェや道路の環境音をバックグラウンドで鳴らしたり、サウンドエフェクトのレコードを使ったりしているんだ。そうすることで少しだけクラブ的な雰囲気を生み出すんだ。パーティーのバイヴっぽくするんだよ。

新作アルバムはかなり大胆なディスコになっていますね。ほとんどのトラックで声がフィーチャーされています。ホイッスルも多く使われていますね。

ディスコって結構ホイッスルって感じでしょ。以前はみんなホイッスルを使っていた。以前、やってみたいと思っていたことがあったんだ。俺たちがクラブに出かけるようになった頃、みんなで一緒にホイッスルを吹いてみたかった。昔、Aphexがプレイしていたクラブがヤバくて、スピーカーが壁一面に設置されていたんだ。俺たち何人かでホイッスルを吹こうとしていたんだけど、友達の中でリズム感がいいのは俺と親友のJeremy Simmondsくらいしかいなかったから、上手くいかなかった。代わりにホイッスルを吹くやつを連れて来て、部屋中で狂ったようにホイッスルを吹いて、客を盛り上げたよ。ホイッスルっていいよね。