Chapter

01

In Residence

Sub Club, Glasgow

世界12カ所でのベスト・ダンスフロアーでの祝祭

2016年に始動したIn Residenceシリーズは、1年間を通して世界12カ所のベスト・クラブを巡りながら各地でそれぞれ1ヶ月間にわたってパーティを開催し、クラブカルチャーを讃えようという企画である。クラブという空間は、日々脈動するダンスミュージックにとっての心臓部といってよく、今年我々が巡る12カ所のクラブは各地のシーンを盛り上げつづけている重要なヴェニューである。週末が訪れるたびにクラブのドアは開き、その中ではわたしたちの愛する音楽がプレイされている。

各地のクラブへそれぞれ1ヶ月間にわたって滞在するにあたり、我々はそれに連動した特集記事を展開していく。さまざまなメディアを組み合わせながら、これらの象徴的なクラブの全貌を捉えていこうと思う。

我々が9月に訪ねるのは、グラスゴーのSub Club。このクラブの名前は、スコットランドの興奮したクラウド特有の怒号のような歓声と屈託のない笑顔とほぼ同義の存在といっていい。スコットランドならではの熱いスピリットがこのダンスフロアーには凝縮されており、低い天井と荒っぽいクラウドはクラブシーンでもっともインテンスな体験をもたらしてくれるはずだ。しかもSub Clubは過去30年間にもわたってこうした魅力的なスタイルを維持しており、変化の激しいUKのクラブシーンにあって稀有な存在感を放っている。

Sep 18 RA In Residence, Sub Club, Glasgow feat. Sasha, Hammer

Sep 23 RA In Residence, Sub Club, Glasgow feat. Audion, Junior & Barry Price

Sep 24 RA In Residence, Sub Club, Glasgow feat. Barnt, Virginia, Harri & Domenic

Sep 30 RA In Residence, Sub Club, Glasgow feat. Optimo, Selvagem

Chapter

02

主要情報

Sub Clubの概要

01
所在地
22 Jamaica Street, Glasgow, G1 4QD, Scotland
02
設立年
1987
03
サウンドシステム
Martin Audio
04
ダンスフロアーの数
1
05
キャパシティ
410
06
レジデントDJ
Harri, Domenic, Telford, JD Twitch, JG Wilkes, Beta, Kappa, Slam, Barry Price, Junior, Iggie, Cesco Ferri, Alan Belshaw, Spencer, Jackmaster, Animal Farm, Bigfoot’s Tea Party, Hammer, Jube, Stay Fresh
07
ミュージック・ポリシー
クオリティーの高い、カッティングエッジなエレクトロニック・ミュージック

Chapter

03

歴史

コミュニティーの精神

グラスゴーにおけるエレクトロニック・ミュージックの人気度について地元のDJやプロモーターたちに尋ねると、彼らはよくボクシングを例にとりたがる。このスコットランド最大の都市は地元の工業の斜陽化という背景を持ち、約60万人ほどという比較的小規模な人口規模ではあるにせよ、他のUKやヨーロッパの都市におけるシーンと比較して「グラスゴーのシーンは体重こそ軽量級かもしれないが、そこから繰り出されるパンチはヘヴィー級さ」と彼らは口を揃えて自負する。今年で開店30年目を迎える老舗クラブSub Clubは、その例で言えばさしずめヘヴィー級チャンピオンといったところだろう。これほど長く営業を続けていられる理由のひとつは、クラブにおいて基本的な要素 — 質の高いサウンドシステム、ワールドクラスのレジデント陣、刺激的なゲストDJのブッキング — を厳格に保ち続けているからであろう。

クラブとしてオープンする以前の時代、Sub Clubは同名のパーティとして開催されていたという。パーティとしてのSub ClubはGraham Wilson、Sam Piagentini、Alan Campbellの3人によって80年代中盤に立ち上げられた（当初このグループはGang Hutと名乗っていた）。彼ら3人はCotton Club（現在ではスコット・ストリートでバー兼カフェとして営業中）をはじめMardi Gras（90年代初頭に閉店）など複数のグラスゴー市内のクラブでパーティを開催していた。やがてパーティとしてのSub Clubはジャマイカ・ストリート22番地のヴェニューで金曜のレジデントパーティとなり、土曜の夜はJamaica Innで開催する形が定着した。そこでポップミュージックと共にプレイされていたのはファンク、ソウル、ジャズ、そしてレアグルーヴなどであった。「僕が最初にSub Clubへ遊びに行った時は、入り口で追い返されちゃったんだ」と語るのはJames Harrigan。「けっこうな数の人々が当時の僕と同じようにドアで跳ね返されていたんじゃないかな。すごく厳しいドアポリシーでね。今思うとトレンディでちょっと鼻につくところはあるけれど、当時は何度追い返されても絶対中に入ってやるって感じだった。ただクラブに入店するだけでも大変だったのさ」と続けるHarriganは、今ではSubcultureのレジデントDJ Harriとして広く知られている。また彼はSub Clubでプレイするようになるのと同時期の頃、ジャマイカ・ストリートにあるヴェニュー（その後店名をLucifer'sに改名）では当時Beatboxと呼ばれるパーティのオーガナイズにも関わっていた。

1987年の4月、Wilsonは地元のパブ店主のGreg McLeodという男と共にLucifer'sの店舗を買い取り、店名はSub Clubと改められた。しかし、この2人での体制は決して長くは続かなかった。開店から1年にも満たないうちに2人は仲違いし、Wilsonはライバル店としてThe Championというクラブを開店させた。この頃になるとSub ClubではJames Brownのような王道ファンクやPlanet Patrolのような'80sエレクトロがプレイされる機会が段々と減り、その代わりにアメリカのミッドウェスト産ハウスミュージックが頻繁にプレイされるようになった。この変化はもちろんUKにおけるエクスタシーの流入を時期を同じくしている。Harriganの回想によると、このドラッグの登場はグラスゴー特有のギャングおよびフーリガン的気質を過去の時代へと押し流し、ハウスミュージックが持つパワーに対して懐疑的だったクラバーたちをパーティに引き込むための絶好の説得材料となったという。「最初こそ、スノッブなソウルボーイたちなどは『うわ、ハウスで踊るなんてありえねーよ』なんて言ってたけど、ひとたびエクスタシーを摂ると豹変したようにハウスで踊り狂うようになったよ。『ハウスってめちゃくちゃヤバい音楽だな』なんて言ってね」

'89年の夏に始まったJoyという金曜のパーティがSub Clubにおける初の本格的なハウスミュージック・イベントとなった。その翌年、HarriganはAtlantisという名の土曜の新パーティの立ち上げへの参画を要請され、後にSlamとして活動することになるStuart McMillanとOrde Meikleの2人もレジデントとして合流した。最初の数回こそ客入りはそこそこだったものの、Glasgow GreenでのThe Stone Rosesギグの前座を任されたことで毎週土曜のAtlantisは一気に盛況となる。この状況はなんと4年近くにもわたって続いた。Domenic CappelloもAtlantisに通う当時からの常連客の1人だった。彼は17歳の時にハミルトン地区のバーでレコードを回しはじめ、キャリアの早い時期にDJにおける妥協という要素について貴重な教訓を得たという。「とにかくワイルドな時代だったよね。アシッドハウスがブームとなってから、バーに遊びに来る人間は1人も酒を飲まなくなった。ただひたすらアシッドハウスでダンスするために来るのさ。マッドだったね。店の人からは『これじゃ酒が全然売れなくて商売上がったりじゃねーか。アシッドハウスをかけるのを止めるか、さもなくばお前はクビだ』なんて言われるハメさ。結局僕はバーでのDJは降りることにした」

それから数年後、CappelloはDesert Storm Soundsystemというアフターアワーズ・パーティでレジデントを努めるようになった。グラスゴーの放棄された倉庫スペースで始まったこのパーティはやがて農場や納屋、立派な邸宅でも開催されるようになった。Harriganが初めてCappelloに会ったのも、このパーティがスコットランド西部のとあるマンションで開催された時であった。「Cappelloはとても小さい中庭でプレイしていたんだよ」とHarriganは語る。「単純に『このDJヤバいな』って思ってね。彼は僕の本当にお気に入りのレコードばかりかけていたんだ。話しかけずにはいられなかったって感じだったね」

Domenic (Subculture), Ricky Scoular (Operations director), Harri (Subculture), Barry Price (Creative director)

その頃、Atlantisは集客が落ち込みはじめ、このパーティに対するHarriganの熱意も失われつつあった。McMillanとMeikleの2人はよりタフなテクノを志向するようになり、彼らはThe Archesの金曜日にそうしたテクノ中心のパーティを開くようになっていた。Slamの2人の選曲における密度とスピード感に合わせて引き立てるようなプレイに苦労していたというHarriganは「（彼らのプレイは）僕からするとちょっとばかり男っぽ過ぎるんだ。ちょっとトゥーマッチな感はあったね」と語る。彼らは結局別々の道を進むことになり、Harriganには土曜の夜を心機一転するチャンスが訪れた。彼はCappelloをDJとして誘い、さらにはOscar FulloneもDJとして加わることになり、Subcultureという名前でパーティを行うことになった。「1回目からすごく上手くいったね」とHarriganは回想する。「ホッと一安心と言うべきかな。当時はDawn Pennの"No, No, No"がリリースされたばかりで... 僕はパーティの最後にこの曲をかけたんだよ。当時のテクノとは全く正反対のゆったりとした曲だけど、フロアーのみんなからしっかり反応があってね。『してやったり』って感じだった」

この時期、Sub Clubの経営権はMacCrimmon家に売却されることになった。元ボクサーにしてエンジニアという経歴を持つKenny MacCrimmonは、当時Sub ClubでDJをしていた長男のMichael、Sub Clubでドアマンとして働きながらやがてこのクラブの実質的運営を任されることになる次男のTonyの2人が将来的な生計を立てていけるようにSub Clubの経営権を買い取ったのだという。MacCrimmon家はSub Clubのスタッフからも尊敬され良好な関係を築くが、兄のMichaelは弟Tonyとの意見の食い違いにより早い段階でこのクラブの経営から手を引くこととなる。「Tonyという人は、商売っ気のない人でね」と語るのは、当時Sub Clubのマネージング・ディレクターを務めていたMichael Grieve（のち1994年にジェネラル・マネージャーに就任）。彼は「Tonyにとってクラブの経営は重荷になっていた。彼の持ち味をその仕事に生かせないということが彼にとって非常にストレスになっていたんだ」と続ける。クラブが重荷になっていたのは、兄弟の父であるKennyにとっても同じだったようだ。1999年11月、Sub Clubにおいて漏電が原因で起きた火事は近隣にも延焼し、クラブは一時閉店に追い込まれるが、その1ヶ月後にKennyはこの世を去った。「惜しい人を亡くしたと、今でも思うよ」とGrieveは語る。また、Tonyも2014年にこの世を去っている。

Michael Grieve

この火事によってSub Clubの店内は水浸しになり、内装パネルもいくつか剥がれ落ち、木張りのフロアーは波打っていた。数日後、解体業者がやってきて黒こげになったファサードの解体を行った。「巨大な機械を使って手際よく解体していく様子に思わず感心していたんだけど、まさか彼らが建物ごと解体するとは知らなかったんだ。これでSub Clubの営業は実質的に中止に追い込まれてしまった」とGrieveは語る。建物の切妻壁部分の修復には数週間から数ヶ月はかかるだろうと知らされたGrieveは、それまでSub Clubで開かれていたパーティをクィーン・ストリートの地下にあるPlanet Peachに移して開催することにし、またロイヤル・エクスチェンジ・スクウェアにあるMasでも代替パーティが開催された。かくして、Sub Clubのレジデント・パーティは定住すべき場所を持たぬまま3年間にわたりグラスゴー市内の各ヴェニューを漂流した。こんなに厄介な事態になると最初から分かっていれば、Grieveは火事の直後にこの仕事から身を引いていたはずだ。

つい最近のある土曜日、筆者はHarri & Domenicのプレイを聴くためにSub Clubを訪ねた。Sub Clubのエントランスはところどころにスモーカーたちがたむろする深夜営業店が立ち並ぶ奥の場所にある。このエリアにはパブも多いが、その中での一番の老舗であるMacSorleysのエントランスには明らかにQueenの「Tie Your Mother Down」をもじった看板が架けられている。Sub Clubの左手には24時間営業のMcDonaldがあり、さらにはポップとロックをプレイするクラブClassic Grandがある。バウンサーをパスしてSub Clubの階段を下りていくと、暖かに鳴り響く低音と共に照明が目に飛び込んでくる。店内は赤色の照明に包まれており、その色彩は懐中電灯を指に透かしたときのような鮮やかな赤を思わせる。

Sub Clubには革張りのソファーやバックバーが点在し、おしゃべりを楽しんだり休憩するスペースがふんだんにある。「常に人の目を気にしなきゃいけないクラブなんて居心地悪いだろ」と語るのは、Sub Clubでサウンド・エンジニアを務めるSean Watson。夜が深まっていくと、自然とダンスフロアーに誰もが集まるようになる。時刻はまだ午前1時を過ぎたあたりだが、Cappelloは切れ味鋭いハウスと波打つようなアシッドをプレイしている。ほとんどのクラバーたちはBodysonicと名付けられたダンスフロアーに集まっている。ここでは、その名の通りサウンドを体感できるスペースとなっているのだ。その名もThe ButtKicker（Butt=お尻）というブランドの低周波発生器が計18個設置され、サウンドシステムに低域の信号が送られるたびに低周波の振動がパネルを通じ発生するという仕組みだ。「フロアーにいると、まるで自分の身体がスピーカーの一部になったかのような感覚が得られるんだ。低音が身体を駆け抜けていくさまが感じられるはずだよ」とWatsonは説明する。

Sub Clubの夜はとにかく濃密だ。スコットランドのライセンス条例により、クラブは午前3時以降の営業はできないようになっているが、だからこそ各パーティはそれぞれの特色を打ち出そうとする。午前0:30ごろを過ぎると、テンポはより加速していくが、決して性急にはならない。「若い時は一気に駆け抜けるようなプレイをしていたけど、DJがテンションを上げていけばその分クラウドもついてきてくれると思うのは大間違いでね。あまりトゥーマッチに行き過ぎると『ちょっとは休ませてくれよ』って感じになってしまう。インテンスすぎて熱くなり過ぎるのも考えものだよね。フロアーが賑わっている時こそ、人の流れを意識しなければいけない。上げてみたり下げてみたり、時には休ませてあげたりね」とCappelloは語る。たいていディスコがプレイされるSubcultureの終盤の時間帯は、他のパーティにも増してセクシーな雰囲気が漂っている。このパーティでのCappelloは、むしろ早い時間帯にハードなトラックをプレイしていることが多い。「パーティの始まりはゆったりと」という定説に対してCappelloはある疑いを持っているのだ。「一度、試しにゆったりとした感じでパーティをスタートしたことがあるけど、なんだかうすら寒い空気を感じたね」と彼は語る。

Sean Watson

Sub Clubでのレギュラーパーティでは主にハウスがプレイされているが、もちろんそれ以外のサウンドも耳にすることができる。SlamによるReturn To Mono、そしてAnimal Farmはテクノのパーティである。他のプロモーターもドラムンベースやジャズ、ソウル、ヒッピホップなどのパーティを長年に渡ってオーガナイズしている。こうした実験精神は強い信念に基づくものもあれば、「とりあえず楽しそうだしやってみるか」という軽いアプローチで試みられる場合もある。Optimoのケースを例にとると、彼らはSub Clubでのレギュラーパーティを始めるにあたり成功への強い確信があったという。「今こんなことを言うのはクレイジーに聞こえるかもしれないけど、当時としてはあのパーティをやるのはラジカルなことだったんだ。かなりラジカルだったと言っていいね。Optimo以前、1997年までのクラブでは当然ながらダンスミュージックがプレイされていた。当時の人々の中には、ダンスミュージック以外の音楽をプレイするDJに対して “白人のオタク青年みたいな音楽” と冷笑するようなムードがあった。Optimoが始まってから1年ほどの間、他のパーティのオーガナイザーやDJたちはこのパーティを覗きにくることさえなかった。単純に彼らには理解できなかったんだろうね」とGrieveは語る。

Keith McIvorことJD Twitch、Jonnie WilkesことJG Wilkesの2人によってOptimoは13年間にわたってSub Clubでの日曜レギュラーパーティを務めた。Optimoは、もともとクラビングに疲れてしまった人々のためのパーティとして始まった。Optimoはダンスミュージックにおけるあらゆる慣習 — スーパースターDJ、ゲストリスト、VIPエリア、そして時にはダンスミュージックそのもの ― に対して反抗した。パーティが始まってからの数時間、McIvorとWilkesは大抵「踊れない曲」をプレイした。早めにクラブに到着した人々が、互いにおしゃべりをして楽しめるようにするためだ。彼らはゲストDJの代わりに、バンドを招いた。立ち上げ当初、Optimoには80人から90人の集客があれば良い方だったという。Frankie Goes To Hollywoodにインスパイアされたポスター・キャンペーンを展開した直後、ドイツのガールズバンドChicks On SpeedがOptimoで演奏することになった。McIvor自身は今でもその理由が分からないというが、Chicks On Speed出演時のOptimoには普段の数倍以上の客が集まった。「Chicks On Speedなんてバンドの名前は誰も知らないはずなのに、1,000人近い人々がこのバンドを観にきたんだ。もうパーティは混雑でどうしようもない状態になっていて、フロアーの中に入るのも、そこから脱出するにもひどく苦労したものさ。人混みをかきわけてなんとか10分間バンドを観て、それからクラブの外へ出るにもまた大変な苦労をしたってわけさ」

当時のOptimoでは、Dinosaur Lのようなニューウェーブ・ディスコ、Cajmereのようなシカゴハウスに交じってSuicideやThe Stooges、Fleetwood Macなども並列にプレイされていた。ハロウィーンにはEspookioという特別編が開催され、ここでは誰が最も狂った衣装を着こなせるかを競い合った。あるカップルはオノ・ヨーコとJohn Lennonの仮装に身を包み、背中にマットレスをくくりつけてかの有名な『ベッド・イン』を再現してみせた。また別の年には、SMの拘束具に身を包んだLegoのキャラクターに扮した男がグランプリを獲得したという。今でも語り草になっているのは、映画『地獄の黙示録』をテーマにした特別編である。彼らはなんとベトナムのジャングルをダンスフロアーに再現し、銃声やヘリコプターの音をSEで流したのだ。

「あのとき作ったポスターには『ナパーム弾の匂いと共に迎える月曜の朝は最高』ってコピーが書かれていたんだ」とWilkeは語る。「とはいえ、宣伝といえるものはその程度さ。まさかこの日のOptimoに特定のテーマがあることを事前に知っていた人はいないと思う。Sub Clubがあるジャマイカ・ストリートから店内を覗くと、マスタード色のスモークが漏れ出ている以外は普段の外観と何ら変わらないからね。一番予算をかけたのは小道具類さ。市の公園事務所からトラックを3、4台借りて植物を山ほど持ち込んだんだ。まさに木の葉の群れをかき分けながらクラブの中に入っていくことになるのさ。でも、ただそれだけじゃ僕らの望むクレイジーなパーティとはいえない。僕らは本物の発火装置をフロアーに仕組んだんだ。僕らは、ベトナム戦争時に使用された砲器類についてくまなく研究した。音楽学校や演劇学校の学生を駆り出して、負傷した兵士を演じてもらい、クラブの片隅にある竹製の檻の中で寝そべってもらったんだ」

ここ数年、Optimoは不定期でSub Clubの金曜夜のパーティを受け持っているが、当時に比べるとよりダンス的な割合は増しているようだ。サウンドの変化と共に、Optimoの2人が望む方向性も変化している。McIvorとWilkesの2人は「Optimoにはどんな表現もできる自由がある」と胸を張るが、そこに誇張や行き過ぎた攻撃性はない。Espookioなどで展開されている風景は現代のソーシャルメディアにおける監視的なムードからは大きく逸脱しているとMcIvorは考えている。「僕らはWhitehouse（'80年代のノイズ／インダストリアル系バンド）の曲をプレイしたことも何度かあるよ」とMcIvorは語る。「今では、人々は歌詞の内容に対してより敏感になっているから、こういう音楽をプレイするのは難しくなっているよね。『こんな歌詞は受け入れられない』とかなんとか言うけどさ、それって実際そんなに気にすることなのかな？　僕には理解できないね。とはいえ、ただ黙殺するだけではなく、議論する余地は残しておくべきだとは思うね。これって結構興味深い議論になるはずだけど、今の時代にそんなことができる根性を持った人がそう多くいるとは思えないね」

ダンスミュージックがポピュラーな存在になっていくにつれ、Sub Clubはよりクラブの基本的な部分に立ち返っていった。このクラブがこれほど息の長い営業を続け、そのアイデンティティを保持している基盤には、レジデントDJたちの存在がある。グラスゴーの他のクラブではゲストDJのネームバリューを活用して集客することが常態化している。Grieveはこうしたゲスト依存の現状を打破するための道筋を見つけるため、しばらくの間頭を悩ませたという。「個人的には、クラブを本来の姿に戻したいという思いがあったんだ。ブッキングされるアーティストよりも、そのコミュニティを大事にしたいっていうね。今のシーンは、5年前と比べても大きく変わった。今では、前売りチケットなんてものが当たり前になってしまったしね。パーティやクラブよりも、まずイベントありきなんだ。Sub Clubは常に単なるヴェニュー以上の存在を目指してきたけど... もしクラブの入り口前で『今日はどんなのやってる？』っていう会話が聞かれることが無くなってしまうとしたら、それはクラブではなくただの味気ないイベントスペースになってしまうね」とGrieveは語る。

Sub Clubのバー・マネージャーを務め、2012年からはSubcultureのレジデントとしてプレイしているRoss Telfordによると、10年前に彼がフロアでのグラス集めとして働き始めた頃に比べると、昨今のトレンドの影響もあってかクラバーたちはオープンマインドさを失いつつあるという。だからこそ、彼はSub ClubのレジデントDJたちをサポートしそのアイデンティティを維持することを助けてくれている常連客たちに感謝の念を強くしているという。「彼らは、ここに来れば良い時間を過ごせると分かっているからわざわざ足を運んでくれるんだ。毎週ここでプレイしているレジデントDJのことを信頼してくれているんだね。うちのレジデントDJはここのサウンドシステムやクラウドを知り尽くしているし、どうすればダンスフロアーを機能させることができるかという術を知っている。こうしたレジデントDJたちの存在こそ、Sub Clubの誇りさ」

ビジネスはしばしばファミリー的な関係に例えられるが、あまりに便利に使われる表現であるがゆえにそこからはある種の誠実さが抜け落ちやすい。だが、筆者はSubcultureへの訪問を通して、本当の意味での家族的な繋がりをこのクラブの中に見出すことができた。このクラブがオープンした当初からの常連客であるMarie Thomsonはフロアーから人がはけた後、DJブースの近くにいた。突然人々が彼女のまわりに集まり、ハッピーバースデイを唄って彼女にロウソク付きのチョコレートケーキをプレゼントしたのだ（後日、Cappelloにこの出来事について話すと、彼は「ああ、Marieおばさんのことだね」と言っていた）。現在は土曜日しか出掛けることはなくなったという彼女だが、「昔は、毎週木曜日から日曜日にかけてここで毎日ステージがあったりしたの」と語る。「誰でも一度Sub Clubに行けば、またここに戻ってきたいと思わせる何かがあるのよ。'90年代にはいつも通っていたけど、ここ10〜15年はまったくクラブに行っていないという同年代の人たちも多いけれど、そんな人たちでも再びここに足を運べば当時そのままの感覚が蘇るはずよ」

Marie Thomson

こうした一貫した何かが、Sub Clubの長い歴史を支えている。ダンスフロアーとは、多くの人々が考えるよりも繊細なスペースだ。ときには、火事やオーナーの死去などの大きな出来事がなかったとしてもこうしたスペースは簡単に失われてしまうこともある。火事の後、OptimoやSubcultureといったパーティがPlanet PeachやMasといった近隣ヴェニューでの開催を強いられた約3年間のあいだ、Thomsonのような常連客は「クラブにとって本当に大事なものはなにか？」というシンプルな疑問について言語化できない答を見出した。Thomsonは語る。「わたしが最初に思ったのは、場所そのものがクラブにとって大事もののひとつじゃないかってことなの。その地下の空間と壁には数えきれない夜の記憶が刻まれているわ。ここの名前がLucifer'sだった頃、さらには'50年代から'60年代に遡ってみても、この場所は常にダンスのためにあったの。この建物の構造材に至るまで、何かが染み付いているのは確かね。でも、あの火事が起きて、Planet PeachやMasにパーティを移していた時期も不思議と今と変わらない同じ感覚があった。別の建物でダンスしていても『わたしたちはみんなでひとつのコミュニティーを形成している』という感覚が確かにあったの」

Chapter

04

レジデント陣

...写真紹介

Chapter

05

重要人物

Sobhan Sheikh

照明技術担当

この特集のために筆者が約30分ほどSobhan Sheikhに話を聞いたところで、彼は手招きして照明ブースの中に私を招き入れてくれた。ちょうど時刻は真夜中になろうとする頃であった。彼は自分のiPhoneをタップすると、そのスクリーンを私に向かって見せた。そこにはこの取材のために我々が話すべき項目がリストアップされていた。そのリストには「Tornado WallaceがPanorama Barによろしくと言っていた」「みんな俺のことを見てますます楽しんでくれている」「DJをディナーに連れ出す時は信頼関係が大事」といったランダムな内容が列挙されていた。

20歳の時にSub Clubで働き始めたSheikhだが、ここ7年間の間はPR業務やアーティスト接待を主な仕事としていた。さらにここ3年間はDJブース脇で照明も担当している。彼はエナジーに満ちたパフォーマーであり、照明を使ってDJのようにクラウドをじらす術も心得ている（彼はストロボとそのファーストネームをもじって「Strobhan」というニックネームで呼ばれている）。

先述のリストには、彼が過去に7度もSub Clubを辞めようと思ったという事実が書かれていた。グラスゴー大学で土木工学と建築を学んだSheikhは、平凡な9時5時の仕事をして住宅ローンに追われる人生に戻ることを何度も考えたことがあるという。だが、彼が言うところの「クラブを支えるサポーターのネットワーク」がその度に彼をこの仕事に留め続けたのだという。「たまに、俺は必要以上に恵まれすぎているんじゃないかって思うことがあるんだ。俺がガールフレンドにふられちまった時でも、仕事を失った時でも、Sub Clubの連中はいつでも良くしてくれる。こういう話をすると、うっかり泣いちまいそうで困るんだがな」と話す彼の声がわずかに震えている様子が分かる。

それにしても、彼はいったいどういった経緯で照明を担当するようになったのだろう？「ある日、MacSorleys（グラスゴー市内の老舗パブ）で座って一杯飲んでいたんだ。隣にはBarry（Barry Price。Sub Clubのクリエイティブ・ディレクター）が座っていて、その夜Sub ClubではA-Trak（Kanye WestのサポートDJもこなすヒップホップ／エレクトロニック系DJ）がプレイすることになっていてね。Barryが『ウチには照明担当がいないんだ』なんてことを誰かに話していて、それを横で聞いていた俺が『じゃあ、俺がやるよ』って言ったのさ。すると当然ながらBarryは『でもSobhan、君は照明なんてやったことないだろ？』って言うわけさ。でも俺は『まあね。でもやってみるよ。Seanに一通り照明卓の使い方を教えてもらうさ。やってみせるよ！』って答えたんだ」

「実は、Sub Clubで働くようになった頃から照明は一度やってみたかったんだ。俺はDaft Punkが好きだったし、ヴィジュアルにも興味があったから、うまくやる自信はあった。でも、俺が興味があったのは照明の技術面というよりは、それに対する人々の反応だったんだ。いわば、クラブのアイデンティティを照明を通じて表現するアンバサダーみたいな役割と言えば大袈裟かな。いつだったか、俺がたまたま着ていた黒と赤のNorth Faceのジャケットを見たDéasっていう女の子が『Sobhan、あなたって着てるものまでまるでSub Clubそのものじゃない』って言ってきたことがあったっけ。言われてみれば、黒と赤は確かにSub Clubの店内のイメージそのままだもんな。俺は『参ったな、俺ってそこまでこのクラブに溶け込んじまってるのか？』って感じだったよ」

Chapter

06

サウンドシステム紹介

Martin Audio

2002年暮れにSub Clubが再オープンする数ヶ月前、Michael GrieveはJames Harrigan（Sub Clubのベテラン・レジデントDJ）から伝えられたこんな言葉が忘れられないという — 「いいか、何を置いても一番大事なのは、みんなを驚かせるサウンドシステムだ」

当時Grieveは彼とともにSub Clubを共同所有していたPaul Crawford共にMartin Audioの社長であるRichie Rowleyとfabricで技術面のヘッドを務めるDave Parryにアプローチし、「スコットランドで最高峰」のサウンドシステムを導入するための相談を持ちかけた。怪我の功名と言うべきか、当時火事で全てを失ったSub Clubには全てをゼロから作り直すチャンスが与えられていたのだ。「RowleyとParryからの共通のアドバイスは、フロアーにおけるサウンドシステムの位置を正しく設定するということだった。ダンスフロアーに『音の壁』を作り出すんだ。クラブ全体の内装のデザインなどは、まずサウンドシステムの位置を決めてから取りかかることにした」とGrieveは語る。

サブウーファーのS218+sを4台、トップボックスのH3+を2台組み合わせたMartin Audio BlacklineシステムはDJブースから見てそれぞれ90°の位置でダンスフロアーに面するよう設置され、エントランスにもサウンドシステムが向けられることになった。「部屋の作りを見たかい？　ほとんどホーンのような形になっているだろ」と言って、Watsonは周囲を指差す。「ちょうどホーンの形に沿ってサウンドシステムが外に向いた形になっているので、僕らもサウンド全体をマネージメントしやすい。しかもフロアのどこにいても万遍なく音が届きやすい。日によっては一晩通してまったく手を加える必要がないくらいさ」と言ってWatsonは胸を張る。

「このサウンドシステムは独特の芯の太さと暖かさがあるんだ」とWatsonは続ける。「心地よく、ソリッドでありながら丸みもある。再生可能な周波数帯もきわめて広い。最近の新しいスピーカーにはプラスティックのパーツが多用されている場合も多いけれど、そうしたスピーカーは得てしてハーシュでキツいキャラクターになりがちだ。Martin Audioに使われている素材は非常に選び抜かれたものが使用されていて、その組立精度も見事だ。ほとんど手間をかけずに、クリーンなサウンドを実現できるんだ」

Chapter

07

ミックス

The sound of Sub Club

Sub Clubが誇るレジデントDJ陣がクラブのアイデンティティを代弁

「Sub Clubでは世界で最高のパーティが開かれている場所のひとつで、長きにわたって鉄壁のレジデントDJ陣が控えていることでも世界的に有名だ。こうした事実こそがこのクラブのアイデンティティを支えていると言えるし、豊かな歴史を持ち合わせたこの濃密な空間は現代のエレクトロニック・ミュージックの水準を引き上げ続けていると思う」

「これらのミックスは、我々の過去／現在／未来におけるアプローチを代弁してくれていると思う。Subcultureは過去22年間にわたってSub Clubの土曜の夜のレジデントパーティとして君臨している。Optimoは1997年にSub Clubでスタートし、やがてワールドクラスの活躍を見せた。Slamは1989年以来Sub Clubでプレイしている古株で、火曜のレジデントを担当してもらっているI AMは今月で6周年を迎える。彼らは皆、このグラスゴーにおいてだけではなく、世界的なエレクトロニック・ミュージックのあり方に影響を与えてきた」

「これらのミックスは、それぞれに固有のコンテクストを有している。JD Twitchのウォームアップ・セットはライブ録音されたもので、Harri & DomenicのセットはSubcultureがピークタイムに向かう時間帯をうまく捉えている。一方、I AMのBeta & Kappaは最初から最後まで非常に幅広いセレクションを展開している。これらのミックスは全体としてSub Clubらしいアイデンティティを表現してくれているし、僕ら自身もすごく満足している」 -- Richard Phillips-Kerr／Nautilus Rising レーベルマネージャー

Sub ClubのRAプロフィールページはこちら。In Residenceシリーズの詳細は、In Residenceページからチェック。